正直、この映画はしばらく避けていた。日本映画に対する先入観があったからだ。テレビで流れるのは漫画の実写化ばかり、という認知バイアスも手伝っていたと思う。
さて感想を。
この映画は、日常をそのまま剥ぎ取ったように、ただ綺麗だ。トイレ掃除をする主人公は、毎日を静かに、しかし確かに楽しんでいる。朝いちばんに自販機でカフェラテを買い、車に乗り込み、カセットでクールな洋楽を流す。昼はコンビニのサンドイッチを頬張りながら、木漏れ日の写真を撮る。
僕らはつい映画にドラマチックな展開や突飛なツイストを期待してしまう。つまり“映像を消費”しようとする。しかしこの作品には、消費できるところがほとんどない。味は薄いのに、食感がよくて手が止まらない、そんな乾いたクッキーのようだ。
印象的な場面はいくつもある。たとえば、掃除道具を自作するところ。彼は“掃除が大好き”というわけでもない。バイトが突然飛んだ日、彼は1日中東京中を駆け回ってシフトを埋めたが、終わりに担当へ電話でこう告げる。「毎日は無理だからね。明日から誰でもいいからよこしな。」
彼には彼のリズムがある。行きつけのバー、銭湯、居酒屋。いつもの景色、寝る前の読書、いつもの日常。
僕らは皆、当たり前の毎日にどこか疑問を抱えつつ、なんとか生きながらえている。主人公の寡黙さの奥にも、その問いはあるはずだ。常連のトイレの壁の隙間に差し込まれたビンゴの紙切れを、彼は小さく楽しげに進める。
—みんな、はみ出さないように頑張りながら、どこか少しはみ出して生きている。そんな毎日を、この映画は丁寧に映している。